大学サッカー通信
第6回 大学サッカー通信 ~ 田中雄大(青森山田高校→桐蔭横浜大学4年)~
2017年08月22日
第6回 田中雄大(青森山田高校→桐蔭横浜大学4年)
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たなか ゆうだい
宮城県出身。2012年度の全国高校サッカー選手権で一躍注目を集め、青森山田高校の守護神に。同校を卒業後、「自分を高く評価してくれた」という桐蔭横浜大学へ進学。代名詞でもあるPKへの強さを発揮しつつ、ゴールキーパーとしての総合力に磨きをかける。
青森ゴールVol.20、22、25、26号にインタビュー掲載。
取材日 2017年6月10日(土)/JR東日本カップ2017 第91回関東大学サッカーリーグ1部
前期第9節 桐蔭横浜大学 対 法政大学
取材:文 本田悠喜(スポーツライター)
田中雄大の名前を聞くと思い出されるのが、PK戦で見せてきた数々の雄姿だ。11対11のチームスポーツであるサッカーで、唯一の個人戦であるPK戦。広大なピッチの端で、キッカーとゴールキーパーの二人だけがにらみ合い相対するあの特異な空間は、これまでサッカーの歴史に数多くの喜怒哀楽を刻んできた。
ホイッスルが鳴り、静寂がピッチを包む。時に何万もの観衆が息を飲むその瞬間は、いつも劇的なドラマを見せてくれた。そこで栄光を掴む者。対して涙に暮れながら、人々の記憶にその姿を強烈に焼き付ける者。残酷な両者の対比がサッカーの歴史を彩り、時を経て、何度も人々の記憶に思い出されてきた。
田中雄大は、そんな劇的なドラマの主演に何度となく選ばれ、あるいは自らその座を勝ち取ってきた。
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第91回全国高校サッカー選手権大会の一回戦、青森山田高校vs野洲高校。かつて一世を風靡し、その当時も圧倒的な個人技術を武器に高校サッカー界に話題を振りまいていた野洲高校との一戦で、後半開始前、青森山田は守護神を負傷で失うという危機に瀕した。
チームを最後尾で支える守護神を欠くというアクシデント。ここで対応を間違えると、一気に試合の流れが相手側に傾く。
しかしこの危機を好機に変えたのが、負傷した野坂浩亮(現ラインメール青森FC)に代わって急遽出場した田中雄大だった。
突発的な出場だったにも関わらず、「準備を怠らなかった」と言う田中は終始声を張り上げ奮闘。チームを支えた。
さらに、2-2のイーブンでもつれ込んだPK戦でビッグセーブを披露。チームを勝利に導くと、続く修徳高校戦でもPK戦で二本のシュートをセーブし、一躍大会のシンデレラボーイとしてその名を全国に知らしめた。
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その後のサッカー人生でも、随所でPKへの強さを発揮してきた田中雄大は、昨年のアミノバイタルカップ優勝、総理大臣杯でのベスト4進出に大きく貢献。あの選手権以降、順調にその道を歩んできた。
あれから5年。彼は今、サッカー人生の一つの岐路に立っている。
「自分はプロになるという目標を持ってこの大学に来ました。今はチームの状態、自分自身のこと、大学のことなどいろいろ考えることはありますが、プロになるという目標は変わりません」
桐蔭横浜大学で4年間研鑽を積み、サッカーで生きていくという決意は揺らがず。プロチームヘの練習参加も行いつつ、「目標はベガルタというのは変わらないです。地元で今までお世話になった人たちに、自分の姿を見てもらいたいというのも変わらないので。それは自分にとっては理想の形ですね」と話す。
そうした理想を頑として見据えつつも、「ただ、ベガルタに限らず他にも視野を広げているので、とにかくプロとしての姿を見せられればと思います。そしてそういう姿を、被災を経験した方々にも見てもらえるようにと思っています」と地に足をつけ、冷静に状況を分析する姿勢は、ピッチ上の熱い姿からは少し想像がし辛いかもしれない。
しかし、「自分の中にもう一人の自分を作るというか。ずっとサッカーノートを書いているんですけれど、そうやって自分を客観的に見ることで、プレーの質が落ちた時に、そのまま落ちていくのは簡単だけれど、『それでいいのか?』と考えるように意識しています」と、ピッチの外では理に従って自分を律している。
オフでも練習に励むという努力家な彼の理想のゴールキーパー像。それは、ゴールキーパーというポジションの原点にあった。
「ピッチ上のキーパーとしての最終的に求められる姿は、シュートストップに特化した姿だと思っています。キーパーはシュートを止めてなんぼ。今はいろんな要素が求められますが、ベースはシュートストップなので、まずはそこを伸ばしていくことですね」
戦術が日進月歩で進化していく現代のサッカー界において、近年ゴールキーパーもより多くの役割が求められるようになってきた。一人のフィールドプレーヤーとしてボールを正確に蹴る技術、空いたスペースを埋めるリスクマネジメント能力、そしてピッチ全体を俯瞰し的確にボールをつなぐための判断力などがソレに当たる。
だが、ゴールキーパーに最も求められる能力がシュートストップの技術なのは言うまでもない。唯一「ゴールキーパーだけが手でボールを触れられる」というルールが変わるような、戦術的パラダイムシフトが起きない限り、この真理は不動のものだろう。いくら戦術が進化しようと、機を見てゴールキーパーが前線に飛び出していく、という光景はさすがに想像できない。
さて、プロを目指すという彼の目標に対して、チームの成績は芳しくない。昨年大きく躍進したチームは今、降格圏に沈み苦しんでいる。田中自身も怪我で離脱し、今季前半戦の半分をピッチの外で過ごした。
「アミノバイタルカップは厳しいという感じです」と自身で話したように、大会でのベンチ入りはなく、試合勘が薄れたまま、後半戦に挑むことになりそうだ。チームの状況と同じく、彼自身万全とは言えないコンディションなのは否めないだろう。
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