大学サッカー通信
第42回 大学サッカー通信 ~嵯峨 理玖(青森山田高校→仙台大学4年)~
2020年09月03日
第42回 嵯峨 理玖(青森山田高校→仙台大学4年)
さが りく
青森県おいらせ町出身
小学生時代はヴァンラーレ八戸FC U-12に所属。中学の時はウインズFC U-15に所属し、U-15日本代表候補合宿メンバーにも選出される。その後、青森山田高校に進学すると2年時にはトップチームの試合に出場し、レギュラーを掴む。3年時には高円宮杯U-18サッカーリーグ2016チャンピオンシップ、第95回全国高校サッカー選手権大会を制覇し、高校年代2冠を達成。仙台大学に進学すると、1年時からレギュラーを掴み、3年生からはキャプテンを任されている。
取材・写真・文:安藤 隆人
取材日:2020年8月10日(月)
@Jグリーン堺
「(小山)新も本気でプロを目指しているからこそ、ここにいるんですよね」
8月10日、真夏のJグリーンのメインフィールド。トライアウト第1部を終えた関西大のDF小山新を見て、第2部に参加をする仙台大のMF嵯峨理久は表情を引き締めた。
2人は青森山田高での2冠メンバー。廣末陸(町田ゼルビア)、高橋壱晟(ジェフユナイテッド千葉)らと共に高円宮杯プレミアリーグと選手権を初制覇した彼らは早くも大学4年生。同級生で順天堂大に進んだ三國スティビアエブスは水戸ホーリーホックに内定が決まったが、2人はまだ決まっていない。
嵯峨は昨年、仙台大のキャプテンを務めるなど、主軸として活躍。ベガルタ仙台とモンテディオ山形の練習に参加するなど、『プロに近い存在』と目されていた。しかし、今年は新型コロナウィルス感染症拡大の影響で練習参加ができず、8月に入ってもオファーがない状況に陥ってしまった。
「これが現実だと思っています。でも幼い頃からプロサッカー選手を夢見てきましたし、それが高校から大学に上がるにつれて、プロへの強い思いが生まれて、プロサッカー選手になって羽ばたきたいと思ったし、これまでサッカーを思い切り続けさせてくれた家族やみんなに恩返しをしたいという気持ちで過ごしてきました」
最後の最後まで諦めたくない。覚悟を持ってのトライアウトだった。
「こういう場を設けてくださるなんてこの先あるかどうかわからないし、自分にとって春先から大会がなくなって、本当にアピールする場所がなかったのは事実で、それは4人の仙台大の仲間もそう。全員サッカーが大好きで、これからも本気で続けたいと思っている選手ばかり。思いは強かったし、覚悟をもってこの大阪の地に臨んできた」
今回は関西地区の大学と高校を対象にしたトライアウトだったが、嵯峨を含め仙台大からは4人が参加。彼らは前日に天皇杯予選宮城県予選準決勝を戦い、勝利した後に大阪にやってきた。
「昨日が今年初めての公式戦で、練習試合を含めると3月以来の試合をこなして、コンディション的には難しかったですが、そんなことは言っていられない。それにトライアウトは初めて組む選手たちと急造チームでアピールしないといけないわけですから、やりづらいのは当たり前。それをいかに少しでもやりやすいようにすることができるか。自分の力が試されると思います」
その言葉通り、1本目はなかなかボールが回ってこなかったが、少ないパスが届くと正確なファーストタッチで前を向いて縦パスを入れたり、ボールキープでタメを作るなど、攻撃にリズムをもたらした。そして本数が進んでいくと、ボールは嵯峨に集まり始めた。
ボールを受けた他の選手が嵯峨の姿を探すようになり、彼にボールを預けると前線へスプリントをし始めたことで攻撃が活性化。この2部の中でも技術レベルの高さ、ボールを呼び込む力を見せつけることが出来た。
「周りと積極的にコミュニケーションをとっていくことで、やりづらさを少しでもなくしながら、僕も味方もストレスを溜めないようする役割ができたと思います」
疲労の表情を浮かべながらも、彼はスタンドに目を送ると、そこには帰り支度をするJクラブのスカウトたちの姿があった。
「こんなにたくさんのスカウトが見てくれている中で、自分が現時点で持っているものは最大限に出し切れたと思います」
今、彼は仙台大でサッカー部全体を束ねる総キャプテンの役割をこなしている。個人のことはもちろん、チームのことも考えながら行動をしている。
「チームをまとめるということは、僕が山田にいたときは(住永)翔がやってくれていたのですが、本当に翔は偉大だなと思った。前に立って堂々と物事を言えるし、自然と僕自身も『あいつについていこう』、『あいつが頑張っているから俺も頑張ろう』と思える力を持っている。自分もそういう力を少しでも身につけたい。発信力ある選手にしたい。翔もまだ進路が決まっていないと聞いているので、それが驚きだし、それだけ僕らが挑むのは甘くない世界。だからこそ、仲間と刺激をしあいながら諦めないで目指していきたい。本当に青森山田での時間は財産になっているし、奮い立たせてくれます。これからですよ」
チャンスはまだある。大学を決めないといけない高校生と違い、大学生は最後まで粘ることができる。嵯峨は大阪の地で仲間の姿に刺激を受け、目標達成に向けてのスパートを切った。